by SOrow in  

ミっちゃん

「だからさミっちゃん」、タクヤは言う。「憎しみは憎しみしか生まねえのよ。それが世界の真理。未来永劫変わらない、見たくなくてもそこにあり続ける、絶対的事実。君が誰かに傷つけられて、憎しみ抱いてその誰かを傷つけたら、その誰かは君を憎むかもしれないし、その誰かに近い人たちが君を憎むかもしれない。これぞ連鎖だよ。憎しみの連鎖。食物連鎖よりも危うくて確実な、世界を滅ぼす真理なのよ。だから憎しみを誰かにぶつけるなんてナンセンスだ。俺たちは人間だろ? 理性をもって秩序を作って社会を維持する人間様。道徳作り上げて救世主をでっち上げて、信仰心で生存本能だまくらかす、偉大なる人間様だよ。快楽だけで動くことにNO突きつけて、快楽生産機構を社会に組み込むペテン師の集まりだぜ。そんな中で憎しみ連鎖させるなんざ、卑小も卑小。ちっぽけすぎる。高邁な精神もって自分は他の人間とは違うって、抗いようのない真理に反逆してこその人間だよ。感情に流されちゃいけない、快楽に流されちゃいけない。いくら辛くても歯ァ食いしばって死に物狂いで這いつくばって、不毛な連鎖を食い止めるんだ。不毛、そう、不毛だよ。憎しみあって何になる。何を得られる、誰が救われる。憎い相手のことを四六時中考えて、仕返し方法考えて、無残な相手の姿想像して人心地ついて、攻撃を実行する。それでどうなる。相手は苦痛の限りを味わった末に死にました、チャンチャン。ハッピーエンドで幕は下りる。フィクションならそれでいい。でも俺たちはフィクションの世界には生きていない。俺たちの人生はそのまま死ぬまで続いてく。その後の人生、憎しみを憎む相手にぶつけて終わったその後の人生が、ハッピーのまま続くと思うか? 自分の頭支配していた憎い相手がいなくなった後の生き方、誰が教えてくれるっていうんだ? だからさ、消せばいいってもんじゃないんだよ。憎しみぶつけりゃいいってもんじゃない。俺たちは人間だ。人間だから、自分の都合の良いように物事計画して実行できる、その知恵がある。自分に絶望しか与えねえ憎しみのことは棚に上げて、憎しみ煽るクズなんざ自分の視界から消し去って、有益に、建設的に生きていく。それがベターな生き方なんじゃないか?」
「じゃあ」、ミチルは言う。「お前があたしの氷結ロング二本勝手に飲みやがった件は、お前の存在をあたしの人生から抹消することで終わりにしてあげようか?」
 それから七秒後、大変申し訳ございませんでした、とタクヤミチルには土下座した。